2022年01月20日
医療崩壊を県民に知らせない玉城県政の欺瞞
昨日(1月19日)、NHK沖縄支局のニュースを見ながら、腹立たしい思いがしてならなかった。具体的にいうと、「今週も感染増加の見通し 高齢者施設の集団感染に警戒を」と題されたニュースの一節に対して、怒髪天を衝く思いに駆られた。
ニュースの中身は、県の疫学調査チームが会見を開き、県内の感染拡大は依然として続いていて、今週1週間の感染者数は、1万人から1万5千人にまで達する可能性がある、と公表したことを伝えるものだが、その中で次のような調査チームのコメントが報じられたのだ。
「沖縄県の疫学調査チームは、今週は、本島中南部を中心に感染者の増加が続く見通しだと分析していて、高齢者に感染が広がった場合は、新型コロナ患者用の病床がひっ迫する可能性があると指摘しています」
腹が立って仕方がなかったのは、「高齢者に感染が広がった場合は、新型コロナ患者用の病床がひっ迫する可能性がある」という部分である。なにをバカなことを言っているのだと思った。
全く冗談ではない。「病床がひっ迫する可能性がある」とは、なんという言い草だろうか。県の疫学調査チームに属する人々は、足下で進行している現実を知らないのだろうか。現状は、そんな生温い表現で言い表せるようなレベルをとっくに超えてしまっている。
実際のところ、県内の医療体制の現状はどうなっているのかというと、一言でいえば、惨憺たる有様である。
同日のQAB(琉球朝日放送)の報道によると、1月18日時点で、入院患者数は367人になっていて、新型コロナ患者用の病床の使用率はすでに73.7パーセントにまでなっている(病床総数=498床)。
まずは病床使用率の急上昇が目につくが、それ以上に深刻なのが、入院調整中の陽性者の数である。その人数は、なんと1853人にもなるというのだ。
つまり、病床数で空きがあるのはわずかに131床に過ぎないが、その14倍を上回る人数の人々(!)が、入院の必要があると判断され、病床が空くのを待っている状態だというのである。
さらにいえば、宿泊療養、自宅療養を行っている陽性者が、それぞれ305人、8837人もいる。宿泊施設と自宅で療養中の陽性者の合計人数から、入院調整中の陽性者の数を引くと、7289人になる。この7289人の中からも、今後、症状が悪化して入院の必要があると判断される人々が出てくるはずである。
かてて加えて、県内の新規感染者の増加にもブレーキがかかっていない状態が続いている。今後も1日当たり千人台の新規感染者が出ることが予想されるが、その新たな感染者の中からも入院が必要な人々が出てくるはずなのだ。
要するに、現時点ですでに病床が圧倒的に足りない状態になっている一方で、入院が必要なコロナ患者の数はさらに雪ダルマ式に増えていく趨勢にある。
はっきりいって、県内の医療体制はすでに崩壊状態にあるのだ。入院が必要な多数の人々を入院させられないばかりか、その大半の人々に自宅療養を強いているというのが、いまの県内の医療体制の実態なのである。
話を県の疫学調査チームの会見にもどすと、まともなオツムを持っている人間であれば、このような状況を指して、「病床がひっ迫する可能性がある」などという言葉は、どこをどう叩いても、出てこないはずである。
この疫学調査チームの言動にも象徴的に表れているが、玉城デニー知事以下、県当局者が口にする言葉に耳を傾けてみると、この人たちは本当に目の前の現実を理解できているのだろうか、と疑いたくなることがしばしばある。目の前の現実を見ようとしていないのではないか、と疑いたくなることがしばしばある。
いま、県の当局者が本当にやるべきなのは、「このままでは病床がひっ迫する可能性がある」などと見当違いな警告を発することではない。そんな段階はとっくに過ぎてしまっているのだ。
いま、彼らがやるべきなのは、まずは、全ての県民に対し、医療体制が崩壊状態にあることを告知することである。その上で、これ以上の感染拡大を阻止するために、全県民が感染予防に全力で取り組むように要請することである。
そして、県当局自らがやるべきことを全力で取り組まなければならない。まずはとにかく病床を増やすことである。それが無理だというなら、酸素吸入センターを大増設することであり、宿泊療養のための施設を大幅に増やすことである。保健所の職員を増員することであり、PCR検査用の試薬をかき集めることである。やるべきことははっきりしている。やらなければならないことははっきりしているのだ。
それなのに、なぜ、県当局は医療崩壊の実態を県民に告げようとしないのだろうか。やるべきことははっきりしているのに、なぜ、県当局の動きはこれほどまでに鈍重なのだろうか。
諸悪の根源はどこにあるのか。その答えははっきりしている。県行政の頭である玉城知事が、医療崩壊の実態を県民に知らせようとしていないからである。一向に主体的に動こうとしていないからである。
トップが真実を公言しない態度を取るようになれば、組織全体にも口をつぐむ空気が広まるのは避けられないことだ。トップの動きが鈍重であれば、組織全体の動きも鈍重になるのは当然のことだ。
それではなぜ、玉城知事は医療崩壊の現実を県民に告知しようとしないのか。
ここからは推測になるが、玉城知事の念頭にあるのは名護市長選への影響だろう。
選挙情勢に関する各種報道によると、現職の渡久地候補に対し、オール沖縄陣営が擁立した新人の岸本候補が追い上げているとされている。そして、いわゆる無党派層では、岸本候補への支持率が、渡久地候補への支持率を上回っているといわれている。
このような選挙戦の最中、医療体制がすでに崩壊し、感染拡大にも歯止めがかかっていないなどと県当局が声高にアナウンスすれば、一体どうなるだろうか。市長選の投票率は確実に下がり、それはまた、無党派層の支持を頼りとする岸本陣営へのダメージとなる可能性が高いだろう。名護市長選の結果を自らの再選戦略にもつなげたい玉城知事としては、同市長選の投票率を下げるようなこと、特に無党派層の人々の足を投票所から遠のかせるようなことは、いまは絶対にしたくないはずである。
いま述べたことが単なる邪推であることを切に望むが、もしも不幸にしてこの推測が正しければ、玉城知事は、名護市長選が終わるまでは、県内の医療崩壊の現実を県民に告知することには消極的な態度を取り続けるに違いない。県の当局者たちもまた、実質的には医療体制はすでに崩壊しているにもかかわらず、「このままでは、病床がひっ迫する可能性がある」などと、ジョージ・オーウェル的な言葉遣いを続けるに違いない。
もしも玉城知事が、県民の生命よりも自らの政治生命にかかわる政治的打算の方を優先させているとすれば、これ以上の県民に対する背信行為はあるまい。万死に値する罪というほかはない。