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Posted by TI-DA at

2023年02月01日

無知をさらけ出した与那覇恵子氏のお粗末


 与那覇恵子氏については、このブログでこれまで2度程取り上げたことがあるが、この人がまたもや呆れ返るほかはない文章を投稿している。

 1月16日付の琉球新報紙に掲載された「戦争を防ぐ日中平和友好条約順守/県議会の迅速な可決を」という一文で、与那覇氏は、日中平和友好条約の条文を長々と引用した上で、現在の日本の対中姿勢は、同条約違反であるとまことにユニークな主張を展開している。

 与那覇氏の主張をもう少し具体的に紹介すると、

①日本政府は、かつて台湾を中国とする「1つの中国」を公認していたにもかかわらず、台湾有事を想定して戦争準備を進めているのは、日中平和友好条約で定められた、「内政に対する相互不干渉の原則」に違反している。

②日本が米国とともに対中軍事シフトを強化しているのは、同条約の「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えない」という規定に違反しているばかりか、中国に対抗して米国の覇権を確立する行為とも判断できるものなので、「両締約国は、(略)アジア・太平洋地域において(略)覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国(略)による試みにも反対する」と定めた、いわゆる「反覇権条項」にも違反している。

 というものである。

 与那覇氏のこうした主張にはどれほどの正当性があるのだろうか。さっそく検証してみよう。

 まずは①の論点についてだが、与那覇氏の投稿文をちゃんと読んだ人であれば気がついたであろうが、氏が引用している日中平和友好条約の条文のどこにも、台湾が中国領であるということは書かれていない。

 それでは一体、与那覇氏は何を根拠に、日米両国は台湾が中国領であると認めていたはずだ、と唱えているのだろうか。

 与那覇氏は引用から落としているが、日中平和友好条約には前文が置かれていて、同条約は1972年の日中共同声明をベースにして締結されたものであるという趣旨が記されている。そして、日中両国の台湾に関する見解は、この共同声明の中で述べられているのだ。

 それでは、台湾の帰属について、日中共同声明ではどのようなことが宣明されていたのだろうか。1972年の日中共同声明において、両国政府は台湾について次のように述べている。

《3.中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。》

 ここで注目してもらいたいのは、この共同声明の文言では、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると記されていることである。決して、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の主張承認し、支持する」とは、書かれていないのだ。

 どういうことかというと、共同声明では、台湾について、中国政府と日本政府のそれぞれの主張と立場が併記されているだけで、確固とした共通の意思が表明されている訳ではないのである。

 分かりやすいようにくだけた言い方をすれば、ここで述べられていることは、中国政府が、「台湾は中国の領土の一部です」という従来からの主張を表明したのに対し、日本政府は、「中国政府がそういうお考えであることは分かりました。そのお考えはお考えとして尊重して、敢えて異を唱えるようなことはしません」と返答したということに過ぎないのだ。

 つまり、日本政府は、台湾が中国領の一部であるという中国政府の主張に同意したなどという事実はないのである。そんなことは、日中共同声明にも、日中平和友好条約にも書かれていないのである。

(なお、話がくどくなるので詳しくは触れないが、先程の日中共同声明の引用部分の末尾にポツダム宣言云々の文言があるのも、日本政府はそもそも台湾の帰属について判断する法的立場にはないという含意がある。また、米中交渉においても、米国政府は、台湾は中国領であるとする中国政府の主張を「認識した」と言っているだけで、「承認した」とは言っておらず、中国の主張に同意した訳ではない)

 こうした事実を念頭に置いた上で、与那覇氏の主張の是非を吟味してみよう。

 与那覇氏は、「日米は台湾を中国とする『1つの中国』を公認して」いたにもかかわらず、日米が台湾有事への介入の構えを見せているのは、内政不干渉の原則に反するものだと批判している。

 与那覇氏がいう「公認した」とはどういう意味なのかがすこぶる不明瞭だが、文脈から推し量ると、与那覇氏は、日米両国が台湾は中国領だとする中国の主張を承認したとすっかり思い込んでいるようである。そして、そうした思い込みに基づいて、日米が台湾は中国領だと認めた以上は、台湾問題は中国の内政問題であり、それに日米が介入するのは内政不干渉を定めた条約に違反していると一方的に決めつけている。

 しかし、事実はどうかというと、すでに述べたように、日米両国とも台湾は中国領であると承認してなどいないのだから、与那覇氏の主張は、事実誤認の上に組み立てられた間違った主張なのである。

 要するに、与那覇氏は、日中平和友好条約などというご大層なシロモノを引っ張り出して知ったかぶりをしてみせたまではよかったものの、そこは素人の悲しさで、条約の中身を誤読してナンセンスなことを言っているだけなのである。やたらと知ったかぶりをしたがる人間はいるものだが、与那覇氏の場合、単に知ったかぶりをするだけではなく、わざわざ新聞に投書して世間にデタラメを吐き散らしているのだから、本当に困った人である。

 第2の論点については、あまりにもバカバカしい話なので、ごく簡単にすませてしまうことにしよう。

 与那覇氏によると、「米国は根拠も示さず『台湾有事』を言い始め、日本は尖閣や沖縄を中国が攻めると根拠なき脅威をあおって(略)戦争準備に余念〔が〕ない」そうである。そして、「日本は平和友好条約違反(略)どころか、中国に対する侵略戦争開始国となりかねない」のだそうである。

 わたしが見るところでは、与那覇氏は政治的なレトリックとしてこういうことを言っているのではなく、本気でそう考えているのだと思う。与那覇氏の現実認識の中では、台湾有事の根拠はいままで一度も示されてこなかったし、中国脅威論は根拠もなしに煽られた虚構にしか見えないのである。そして、日米両国が、根拠のない中国脅威論を煽って戦争準備に突き進んでいるのは、中国侵略戦争をしたいからだとしか見えないのである。

 実際にはどうか。台湾有事や中国脅威論については、説得力の強弱はあるにしても、これまで様々な根拠が提示されてきている。また、力による現状変更を意図しているとしか思えない中国の現実のふるまいを見れば、日中平和友好条約で定められた紛争解決手段としての(威嚇を含む)武力の不行使や反覇権条項に違反しているのは、むしろ中国の側ではないかという視点も成り立ち得るほどである。

 しかし、そんなことは与那覇氏には関係ない。見えてはいても見ていないし、聞こえてはいても聞いていないのだから、与那覇氏にとってはそうした事実ははじめから存在しないのと同様なのだ。

 養老孟司氏の『バカの壁』(新潮新書)の中に、まるで与那覇氏のことを念頭に置いて書かれたのではないかと思えるような記述がある。

「自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在しています。これも一種の『バカの壁』です」

「バカの壁というのは、ある種、一元論に起因するという面があるわけです。バカにとっては、壁の内側だけが世界で、向こう側が見えない。向こう側が存在しているということすらわかっていなかったりする」

 与那覇氏は、自らが築いた壁の中に閉じこもり、その壁の内側だけが全世界だと固く信じ込んでいる人なのである。壁の向こう側には別の世界があるということが全く分からない人なのである。

 本当に困った人である。




  
Posted by HM at 13:27Comments(0)与那覇恵子