2024年07月14日

地元紙を読んでも分からない尖閣状勢の緊迫化


 7月5日付の読売新聞(夕刊・東京版)に、沖縄県民にとっては見過ごすことができない重大な記事が掲載されている。

 その記事とは、「尖閣日本船 名指し警告/中国海警が投稿 実効支配宣伝」と題されたもので、昨年7月頃から、尖閣海域で操業している沖縄県の漁船に対し、中国海警局がSNSを通じて名指しで威嚇している、というものである。

 記事の冒頭の一文を引用してみよう。

「尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺に船を送り込み、領海侵入を繰り返している中国海警局が、中国のSNS『徴博(ウェイボー)』で、尖閣沖で操業する日本漁船などを名指しし、〈退去するように警告した〉とする投稿を繰り返している。昨年7月頃から始まった動きで、個々の漁船を監視していると強調し、尖閣の実効支配をアピールする狙いがあるとみられる」

 同記事によると、海警局が中国軍を統括する中央軍事委員会の傘下に入った2018年7月から、同局名によるウェイボーへの投稿が始まったらしいのだが、はじめのうちは投稿内容も紋切り型のものばかりだったようだ。

 ところが、23年1月に石垣市が尖閣沖での海洋調査を実施したのを潮目に、海警局の投稿内容の調子がガラリと変わったという。読売の記事では次のように続く。

「このとき〔石垣市による海洋調査の〕現場では、同市の中山義隆市長らが乗った作業船が海保の巡視船に守られながら航行。周辺では日本漁船4隻も操業していた。

 海警局はこの動きに、〈(作業船を含む)日本船5隻が領海に不法侵入した〉とし、〈中国海警局は同船に対し、法に基づいて必要な措置を講じ、退去するよう警告した〉と主張した。

 操業する日本漁船を名指しするようになったのは、23年7月からとみられる。徴博では、石垣市や与那国町などの少なくとも5隻の名前が確認できる」

 この記事ではさらに続けて、中国海警局が、ウェイボーへの投稿文で、尖閣沖で警戒・監視をしている日本の海上保安庁の巡視船についても、それまでの「領海侵入」という表現から「不法侵入」というより強い表現を使うようになっていることや、23年3月以降から、海警局の艦船が尖閣周辺海域で船舶自動識別装置(AIS)を作動させるようになり、あたかも、海警局が同海域を実効支配しているかのように見せかける情報発信をしている(海保の艦船は中国側に船の位置をつかまれないようにするために、尖閣海域では識別装置を切っている。そのため、AISのデータ上では、尖閣海域には中国の公船しかいないように見えてしまう)ことなどを記した上で、中国にとって有利な形で既成事実を積み重ね、尖閣海域の実効支配につなげる狙いがあるのではないか、と警鐘を鳴らしている。

 また、同日付の読売新聞は、「中国 尖閣退去警告/船長『今後も漁続ける』」という関連記事の中で、海警局から名指しされた漁船の船長の談話も報じている。その内容は次のようなものだ。

「中国海警局が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域で日本漁船を名指しして退去するように警告を始めた。それでも漁業者は『海上保安庁が海警船との間に入り、警備してくれている。尖閣は日本一の漁場だ。これからも漁を続ける』と語った。

〈日本漁船『瑞宝丸』が赤尾嶼(大正島)のわが領海に不法侵入した〉

 与那国町の漁船『瑞宝丸』(総トン数9・7トン)の船長、金城和司さん(52)は、中国海警局の徴博で最初に名指しされたとみられる。

 海警局報道官の談話が徴博に投稿されたのは2023年7月14日。〈海警船は法に従って(瑞宝丸に)対応し、必要な措置を講じて退去を警告した〉と主張している。

 だが金城さんの認識は異なる。『海警船は3マイル(約5・6キロ)以上離れていた。間に巡視船が入ってくれ、追尾はされず、無線での退去要求もなかった』と振り返る」

 この読売新聞の記事を読んで、沖縄県外の読者は、尖閣諸島で操業する漁船が中国当局から名指しで威嚇されているという事実に、尖閣をめぐる状勢がそれほどまでにきな臭くなっているのかと、驚愕する思いを抱くに違いあるまい。

 しかし、この記事を読んで、それ以上に愕然とする思いを抱くに違いないのは、実をいうと、沖縄県民の方なのである。

 なぜならば、沖縄の地元メディアは、尖閣諸島をめぐる中国の動きについては、ほとんど黙殺に近い態度を取り続けているために、大多数の沖縄県民は、中国当局による地元漁業者に対する威嚇行為が公然となされているという事実を、全く知らないからである。

 これは全く異様な状態だというほかはない。

 沖縄県内で起きている出来事について、読売新聞を読んでいる県外の読者が知っていることを、琉球新報や沖縄タイムスといった地元紙を読んでいる沖縄県内の読者は、全く知ることができないのである。尖閣諸島をめぐる状勢が緊迫化の度合を高めているというのに、尖閣諸島を領域に収めている地元の沖縄県民が、その事実から完全に情報隔離されているのである。

 どうしてこのような異様なことが起きるのかといえば、客観的な事実の報道よりも、政治的なキャンペーンを重視するという沖縄の地元メディアの体質がある。

 詳しくは今後、別の機会に論じることにしたいが、沖縄メディアでは、中国脅威論を根拠づけるような事実の報道は、まずは忌避されてしまうというのが常である。

 それはなぜかといえば、中国脅威論につながるような事実の存在を認めてしまうと、否応なしに、中国の脅威に対応するための相応の抑止力が必要だという議論を否定できなくなるからである。そうなると必然的に、在沖米軍の抑止力としての必要性や抑止力としての自衛隊の増強にも、反対の声をあげにくくなってしまうからである。

 その結果、沖縄の地元メディアでは、沖縄に直接関わるようなものであればあるほどに、中国がもたらしている脅威や懸念に類する事実は報じられないのである。自らが展開する政治的キャンペーンの足場が崩れてしまうことを避けるために、不都合な事実には目をつぶってしまおう、という訳である。

 しかし、これを倒錯といわずして何というべきだろうか。

 これまで何度も指摘してきたことだが、報道メディアの第一の使命は、読者が知るべき事実を正確に報じることである。自らの政治的キャンペーンを正当化するために、都合の悪い事実は報じない(あるいは逆に都合のよい事実だけを報じる)などという恣意的な態度は許されるものではない。

 報道メディアのあるべき姿からすれば、県民が知るべき事実を報じない沖縄メディアには、そもそも報道メディアを名乗る資格がない。事実の報道なき報道メディアとは、たとえていえば、タイヤのない車、エンジンのついていない飛行機、屋根のない家のようなものである。そんなものはナンセンスである。

 沖縄メディアの関係者たちが、自分たちのやっていることがどれほどナンセンスなものであるかに気がつくのは、一体いつのことなのだろうか。



地元紙を読んでも分からない尖閣状勢の緊迫化




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Posted by HM at 17:05│Comments(0)
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