2018年12月04日

松島泰勝氏と〈琉球人遺骨返還訴訟〉の非常識(上)

   
 12月2日付の琉球新報に掲載された「琉球人遺骨返還、4日提訴」という記事を読んで、あまりの非常識さに呆れ返ってしまった。

 松島泰勝・龍谷大学教授らが、1929年、当時の京都帝国大学助教授によって今帰仁村の百按司墓から持ち出された遺骨について、現在、遺骨を保管している京都大学を相手に遺骨の返還を求める運動を行っていることは、地元紙でも何度か取り上げられているので、ご存じの方もいるだろう。

 琉球新報の記事によると、松島氏らは京大に遺骨に関する情報開示と返還を求めてきたが、京大側がこれを拒否したことを受け、遺骨の返還と損害賠償を求め、12月4日に京都地裁に提訴することを決めたという。

 呆れ返ったというのは、裁判を起こす原告の顔ぶれと訴えの法的根拠の中身である。琉球新報の記事から引用すると、それは次のようなものだ。

「百按司墓は北山王系または第一尚氏系統の墓所と考えられているため、家譜などから第一尚氏の子孫と確認されている2人が原告となる。ほかに琉球民族として松島代表と照屋寛徳衆院議員、彫刻家の金城実さんの3人も原告に加わる。

 原告らは、京都大が遺骨を返還しないことで憲法20条の信教の自由が侵害されていることなどを訴える。遺骨返還を求める権利を明記した国連の先住民族権利宣言にも反していると主張する。損害賠償は原告1人あたり10万円を求める」

「返還を求める法的根拠は民法、憲法、国際人権法の三つの観点から主張する。民法は遺骨に関する権利が『祭祀承継者』にあると規定している。そのため百按司墓とつながりがあると考えられている第一尚氏の子孫が原告となった。

 憲法は13条の人格権、20条の信教の自由が侵害されていると訴える。遺骨返還を拒まれたことで自己決定権を侵害され、伝統的な慣習に従って祭祀を営むことができないことも権利の侵害だと主張する。

 国際人権法の観点からは遺骨返還の権利が明記された国連先住民族権利宣言のほか、少数民族の権利保護を規定した自由権規約27条を根拠とする予定だ。

 損害賠償は原告らが遺骨返還を拒否されたことなどで『精神的苦痛を受けた』と訴える」

 記事の書き方が乱雑なので分かりにくいが、松島氏らの主張を大雑把にまとめると、およそ次のようになるだろう。

 まず、第一尚氏の子孫だとされる2人の原告については、遺骨の管理権を有する祭祀承継者としての立場から京大に遺骨の返還を求めるとともに、遺骨が持ち去られたために伝統的な祭祀を営むことができなくなり、その結果、人格権と信教の自由を侵害されたとして、精神的苦痛に対する損害賠償を求めるというのである。

 そして、松島、照屋、金城の3氏については、日本における先住民族である琉球民族を代表する立場から、京大から遺骨返還を拒まれたことで、国連の先住民族権利宣言などに基づく自己決定権が侵害されたとして、同じく精神的苦痛に対する損害賠償を求めるというのである。

 裁判についてあまりご存じない方であれば、この記事を読んで、このような裁判の提起も普通にできるのだろうと思うかもしれない。しかし、いくらかでも法律知識のある人であれば、これを読んで、開いた口がふさがらないはずである。

 なぜならば、民事裁判の原則に照らして考えると、そもそも、松島氏らにこのような裁判を提起する資格があるのか、そして、松島氏らが唱えている訴えは裁判として成り立つものなのか、大いに疑問があるからだ。

 裁判というものは、誰でも好き勝手に提起できる訳ではない。裁判を起こすことができるのは原則として当事者に限られていて、当事者としての資格がない者から裁判を起こすことはできない。

 このような当事者としての資格のことを、法律用語では「当事者適格」という。

 具体的な例をあげて説明すると、たとえば、Aという人物がBに騙されて財産をとられてしまったとしよう。そこに突然、Aの知り合いのCという人物が勝手にしゃしゃり出てきて、BはAから騙し取った財産を直ちに返還せよ、という訴えを裁判所に起こしたとする。

 このような場合、どうなるかというと、たとえBがAの財産を騙し取ったという事実が実際にあったとしても、この訴えは裁判所から却下されることになる。

 なぜかというと、Cには裁判を起こす当事者としての資格(当事者適格)がないからである。Bに対して財産を返還せよと請求できるのは、その財産に正当な権利を有する者だけだが、そもそも、Cはそのような権利を持っていないため、裁判の当事者にはなれないのである。

 そこで、この当事者適格という観点から、松島氏らの訴えの内容を読み直してみると、それがかなり無理筋なものであることが分かるのだが、詳しくは次回に述べる。



松島泰勝氏と〈琉球人遺骨返還訴訟〉の非常識(上)








Posted by HM at 16:41│Comments(0)
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