2020年04月21日

新型コロナ危機③ 県の消極的情報開示がさらなる感染蔓延を招く

 新型コロナ・ウイルスの県内での感染蔓延がとまらない。医療体制が逼迫しているなかで、感染による死亡者も増え始めており、状況は悪くなる一方である。

 中学生でも分かることだが、このような状況下で、最優先でやるべきことが2つある。1つは、感染者に対する十分な医療体制を早急に整えること、2つ目はこれ以上の感染拡大を少しでも抑制するためにあらゆる手段を講ずることである。

 感染拡大を抑止するための手段には様々なものがあるが、そのなかで沖縄県がその気になれば、いますぐにできることがある。

 感染者の行動履歴の公開である。

 連日の県内での感染拡大に関するニュースを見ていると分かるはずだが、沖縄県は、感染者やその家族のプライバシー保護を理由にあげて、感染者に関する情報をほとんど公開していない。感染経路が不明のケースでは特にそれが顕著で、性別や年齢ぐらいしか明かしていない(時にはこれらの情報さえも明らかではないことがある)。

 結論から先にいってしまうと、こうした県の情報開示方針は絶対に間違っている

 もちろん、感染者のプライバシー保護が重要であることはいうまでもない。ネットユーザーの一部には感染者の氏名や住所を公表しろというヒステリックな声もあるようだが、このような主張はバカげているというほかはない。感染拡大抑止の観点からすれば、そのような情報まで公表する必要はまずない。

 しかし、感染者の直近の行動履歴については、具体的な立ち寄り先を含めて公表すべきである。

 なぜならば、感染者の行動履歴が明らかにならなければ、感染拡大を食い止めることができないばかりか、むしろ、感染拡大に道を開いてしまうことにもなりかねないからだ。

 多くの人々はとっくに気がついていることだが、たとえば、「那覇市在住の20代の男性が新型コロナ・ウイルスに感染していることが確認されました」という情報を伝えられたところで、実際のところ、私たちはどうすることもできない。

 ひとくちに「那覇市内に在住する20代の男性」といっても、それに該当する人間は数え切れないほどいるから、自分が、感染が確認されたその男性と接触した可能性があるかどうか、推測することさえもできないからである。

 たとえば、感染者の居住地は那覇市だとしても、職場は浦添市や豊見城市かもしれないのだから、浦添や豊見城に住む人々にとっては、どこで感染者と接触しているか知れたものではない。名護にいる友人のもとを訪ねて会食していたかもしれないし、休日に日帰りで離島に遊びに行っていたかもしれないから、感染者が那覇市在住だからといって、名護や離島にいる人々は安心していいかというと、そんなことは決していえないのである。

 このように考えると、県当局の情報開示がまるで的外れであるということがお分かりいただけるはずである。

 感染者の性別、年齢といった情報は本当に必要なものではない。本当に必要なのは感染者がいつ、どこにいたことがあるかという行動履歴なのである。言い換えると、感染者の詳細な行動履歴を公表するならば、感染者の性別や年齢といった個人情報まで公表する必要は必ずしもないのである。

 適切な情報開示とは、たとえば、次のようなものである。

〈新たに感染が確認された人物が、今月12日の午後、那覇市内のデパート○○の1階と3階で1時間程度、買い物をしていたことが分かりました。同じ日の同じ時間帯に○○の同じフロアーにいた人は、念のため、体調の変化に注意して、もしも発熱や倦怠感を感じるようであれば、早めに保健所か、かかりつけ医の医師に相談するようにしてください〉

 このような形で情報が提供されれば、感染者のプライバシーにも配慮しつつ、なおかつ、感染者と接触した可能性がある人々へのアラート(警報)としても十分に実効性を持たせることができる。

 メディアの報道でご存じの方も多いだろうが、3人の感染者が確認されている石垣市では、すでにこのような形で市民に情報を提供している。やろうと思えばできるのである。

 というよりも、石垣市ができることが、どうして県当局にできないのだろうか。あるいは、どうして石垣市にならって開示情報の内容を改善することができないのだろうか。ことが人命に関わるものであるだけに、不可解というレベルを通り越して腹立たしい思いがしてくる。

 さらにいえば、県の消極的な情報開示方針に唯々諾々とつき従っている、地元メディアの報道姿勢も腹立たしい限りである。

 県内で市中感染が蔓延しはじめてから、県当局も地元メディアも、「感染症を過剰に恐れるのではなく、正しく恐れよう」と、しきりに県民に呼び掛けている。

 しかし、これほど人をバカにした話があるだろうか。私たちが正しく恐れ、正しく身を守るためには、正確な情報がなければならないのである。そして本来ならば、県やメディアには、そうした正確な情報を県民に提供する義務があるはずなのだ。その役割をすっぽかしておいて、「過剰に恐れる必要はない」などと能書きを垂れるというのは、そろいもそろって、一体どういう神経なのだろうか。

 本当にバカも休み休みにしてもらいたいものである。

 いささか脱線気味になってしまったが、話をもどすと、感染者の行動履歴の公開は、感染の蔓延が初期のうちに始めなければ意味がない。

 感染者の行動履歴を周知させるのは何のためか。
 感染者と接触した可能性のある人々にいち早く警報を発し、早めの自宅待機・受診を促すことで、感染の拡大がまだ小規模なクラスター(集団感染)にとどまっているうちに、その小クラスターを封じ込め、それ以上の感染拡大を食い止めるためである。

 小クラスターの散発的な発生という段階を超えて、メガ・クラスターが起きてしまってから、感染者の行動履歴を公開して県民に警戒を呼び掛けても、もはや手遅れなのである。それでは意味がないのである。

 県当局は一刻も早くこれまでの情報開示方針を改め、県民が身を守るために必要にして十分な情報を公開すべきだ。繰り返すが、当局がその気になれば、今日にもできることなのである。

 今回の新型コロナ・ウイルスの出現は人智の及ばぬ自然災害にほかならないが、県当局者は、当局が適切な情報公開をやらなかったために不幸にして感染爆発が起きてしまったら、それはもはや自然災害ではなく、《人災》になるということを肝に銘じてもらいたい。



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